結論からいうと 「E2E(エンドツーエンド)暗号化されたメッセージ本文までを、キャリアが平文で保存する」という内容ではありません。
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1. 改定案が想定している「履歴」とは何か
• 政府が検討しているのは、SNS を悪用する詐欺グループを特定しやすくするため 通信事業者が保有している接続ログを一定期間消さずに残す という仕組みです。
• 日経の記事の要旨(はてなブックマーク抜粋)でも「通信事業者に通信履歴の保存を義務づけることを検討」「捜査機関が犯行グループを特定しやすくするため」とだけ示されています 
• 法務省が公開している通信履歴保全制度の Q&A では、「通信履歴」とは送信先・送信元・日時などのログであり、通信内容(本文)は含まれない と明確に定義されています 。
「通信履歴」とは,通信に関わる事項の記録のうち,通信内容を除くものをいいます(電気通信の送信先,送信元,通信日時等)。
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2. E2E 暗号化されたアプリはどうなるか
項目 キャリアが見られる範囲 改定案で保存対象になる可能性
メッセージ本文(Signal, WhatsApp, LINEシークレット等) 暗号化されているので不可視 対象外(復号不可)
暗号化されたパケットそのもの 可能(TLS や E2EE の暗号化フレーム) 物理的には保存できるが、中身は読めない
接続先 IP / ドメイン、セッション開始‐終了時刻、転送 byte 数 可視 対象
端末識別子・契約者情報 可視 対象
要するに、キャリアが保有するのはメタデータ(誰がいつどのサービスと通信したか)であり、メッセージ本文そのものは暗号化のまま残るか、そもそも取得できません。
E2E アプリ側のサーバーや端末が復号鍵を握っていますから、キャリアが「平文を保存する」ことは技術的にも法的にも想定されていません。
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3. 施策の今後と論点
1. 保存期間・範囲の詳細
• まだ「案」の段階で、何か月保存するか・対象ログをどこまで拡張するかは今後の省令・指針で詰められます。
2. プラットフォーム事業者への波及
• ロマンス/投資詐欺対策ではマッチングアプリや SNS 自体に本人確認強化を求める施策も並行して検討されています 。
• ただし 「暗号化を解除して当局に提供せよ」という義務付けは、現時点の改定案には含まれていません。
3. E2E 暗号化への長期的な圧力
• 日本も 2020 年に各国と連名で「E2E 暗号化でも公共安全を両立させる方法を探る」声明に署名しており、将来的にサービス提供者へ“何らかの協力”を求める議論は続く可能性があります 。
• とはいえ暗号のバックドアはサイバーセキュリティ全体を弱めるため、国際的にも慎重論が根強い状況です。
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4. まとめ ― ユーザーが覚えておきたいポイント
• 今回の保存義務はあくまで「メタデータ」の話。E2E メッセージ本文が平文で読まれるわけではない。
• ただしメタデータだけでも、IP・時刻・端末 ID を突き合わせれば人物特定に役立つ。プライバシーへのインパクトはゼロではない。
• 法案化の過程で保存範囲や期間が拡大しないか、暗号化解除を義務づける方向に議論が及ばないか、今後のパブコメや国会審議を注視するとよい。
結論
ご質問の「E2E 暗号化されたアプリの履歴も暗号化されずに保存されるのか?」に対しては
「いいえ。保存の対象はキャリアが元々取得できる通信ログ(メタデータ)であり、暗号化された本文が復号されて保存されるわけではない」
という理解が正しいと言えます。