選択的伝達に関する既存研究として犬笛 (dog whistle) 検出があるのだが、これがまたひどいことになっている。
https://aclanthology.org/2023.acl-long.845/
https://aclanthology.org/2024.acl-long.675/
犬笛とは、表向きは無害に見えつつ、特定の集団にだけ (有害な) 意図が伝わるよう設計された言語表現とされている。しかし、そもそもこの語自体が価値判断を含む。「私は犬笛を吹いた」などとは言わない。もっぱら送信者の敵がその発言を非難する文脈で使われる。「犬笛が聞こえているのは敵だけ」と揶揄される所以。
仮に送信者が本当に犬笛を意図していたとして、受信者がその意図を読み取ったかという観点が完全に欠落しており、コミュニケーション研究としてはいびつ。ひたすら敵の発言を検閲することだけに熱意が注がれている。
技術的には語義曖昧性解消 (word sense disambiguation, WSD) として定式化されている。事前に選定された用語リストに含まれる用語が犬笛か否かを分類する。対象を恣意的に選定し、異論可能性を欠いた (uncontestable な) システムを作るという点で、まさに以前議論したバイアス研究の駄目さの典型となっている。
その用語リストを見ると、本気で思想検閲をやろうとしていることが伝わってくる。例えば、TERF を根絶したいという強い意志がにじみ出ている。
https://dogwhistles.allen.ai/glossary
このリストに普遍的な根拠があるのか? 例えば、右派が犬笛非難をミラーリングして、diversity という語は anti-white racism の犬笛だと主張していたりする。この主張を退ける価値中立的な規準は存在するのか? ないだろう。結局のところ、自分の党派がこれらの政治的主張を支持しているという話でしかない。